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Kami技の開発に当たり、共有しているファイルを削除した際にごみ箱に入るようにしたり、上書きをしないようにしたりすることは、一寸したことですが開発側にとっては負担の大きいものでした。
Kami技は当社とパートナーの大手企業との共同開発プロジェクトで生まれました。主に設計を当社が行い、パートナー企業がプログラムの実装を担当しました。
当社は設計に当たって仕様書に以下の2項目を加えました。
「削除したファイルはごみ箱に入ること」、「ファイルを上書きしないこと」というものです。
設計業務が完了してプログラムの実装作業に入る段になって、パートナー企業から相談がありました。
「仕様書を見せると開発会社が引き受けない、こんなことは初めてだ」といった、外注先が見つからないとの内容でした。
見当は付いていましたが、当社としては「御社は世界で活躍しているグローバル企業です。引き受け手は必ず見つかりますので頑張ってください!」と、担当者に発破をかける他ありませんでした。
それから3週間ほど経って「開発先が見つかりました。」との連絡を受けました。
「良かったですね」というと「良くない」というので、合って話を聞くことにしました。
開発を受けたところは、パートナー企業のグループ会社内で最高の技術力を持つという研究所でした。ここまでは良い話なのですが、良くないところは単価の高さでした。
7人チームで開発することが決まったそうですが、その請求単価が当時の3倍ということでした。「ここしか受けるところがなかったので仕方がなかった。」とは担当者の弁でした。
開発先が見つからなかった理由ですが、プログラムを開発するにはOSメーカーが提供している開発ツールを使います。
マイクロソフト社の場合では、ファイルソフトはエクスプローラーですが、これが開発ツールの中に部品として入っていますので、開発者はプログラムの中にエクスプローラーを組み込むことができるのです。
これによりファイルソフトを開発する必要がなくなります。仮に部品を使わないとなると、開発者はゼロから全てを作る必要があるので大変です。
例えばファイルソフトを作成する場合では、エクスプローラーの開発費は分かりませんが、その開発費用分の工数をかけてプログラミングしなければらないのです。
Kami技の外注先が見つからなかったのは、この話と同様の状況だったからです。
エクスプローラーは削除や上書きによりファイルを消失してしまいます。そのためプログラムにエクスプローラーを組み込めなかったのです。
自前でファイルフトを開発するか、それに替わる手段を探すか、何れの方法しかありませんでした。
オリジナルのファイルソフトを開発するのは開発費用面で不可能に近いことでした。
ところが研究所は受けたのです。それには理由がありました。
「さすが大手」としか言いようがありませんが、OSがWindowsに替わる際に研究所ではエクスプローラーに相当する独自のファイルソフトを内作していたのです。そのためこれに手を加えることでKami技の仕様を満たすことができたのです。
これはとても幸運なことでした。
もしもこの幸運がなければ、Kami技の「ファイルの消失を心配することなく運用できる」という美点を実現できなかったのです。