共有フォルダではファイルの整理は出来ない

職場でパソコンを導入したことで、多くの事務処理が効率化しました。事務処理の業務は情報の処理を含みますので、情報処理装置であるパソコンを用いることで効率化するわけです。そしてファイルの共有や保管にネットワーク経由の共有フォルダを用いることが一般的です。

ただ、共有フォルダは「何処に何のファイルが有るのかわからない」といった事業所が多いと感じています。ファイルには情報ですから、この所在がわからないというのは、多くの人がパソコンにより業務が効率化したと考えてる中で、実はそれほどでもない可能性もあるのです。

山梨県の甲府市役所ではパソコン導入前と導入後で業務の効率化を検証したそうです。そして個別の業務は効率化しものの、ファイルを探す時間が増えたことから「業務の効率化はなされていない」という結論に至ったそうです。このことは、共有フォルダのファイルを見つけやすくできれば本来の効率化が見込めることを表しています。

ただ、パッケージソフトの開発会社として30年余りに渡り多くのお客様と接してきましたが、「共有フォルダから目的のファイルを直ぐに取り出せる」といったよう、整理整頓された共有フォルダを見たことがないので、ファイルの整理はそう簡単ではなさそうです。

どのような整理方法が適しているのか調べる過程で、私たちは「共有フォルダはファイルの整理に適していない可能性がある」と考えるようになりました。これは目的と道具の関係から得た結論です。ノコギリとカンナは共に木材を削る道具ですが、カンナを使って木材を切ろうとしたりノコギリを使って木材の表面を滑らかにしようとしても効率的ではありません。「目的に適わない道具は労力の割に成果を伴わない」そのため、共有フォルダに代表されるフォルダ型ソフトは「ファイル整理」という目的に適わない道具か、若しくはもともとファイルの整理を目的にしていない可能性を考えたのです。

フォルダ型ソフトの目的にファイル整理が含まれるのかは分かりませんが、以下の点からこれを目的にしていたとは考えられないのです。

整理整頓ですは「もの」を見つけやすくすることが目的のはずです。ここでは「整理した人」とそれを「使う人」がいると思います。これらは同一人物でも別の人であっても構いません。重要なのは「使う人」がそこから「整理の仕方」を理解できることです。「整理した人」は意図を持って「もの」分類、整頓したわけですから、「使う人」がその意図を理解できなければなりません。この場合のみ「もの」が見つけやすくなりますし、そうでない場合は見つけやすくなりません。

具体的な整理の仕方ですが、最初に「もの」の分類方法を決めます。「用途」や「かたち」や「大きさ」といった、特性から分類方法を決めます。分類が決まると次にこれを配置します。配置する場所は分類と関連付ける工夫をすることがポイントです。これをすることで、使う人はどのような分類されているのかが分かり、それがどのように配置されているのかが分かるので、探す範囲が狭まり見つけやすくなるのです。

整理の仕方がわかる条件

直観的に、見ただけで整理の仕方を理解するのには、以下のことが分かる必要がありそうです。

・「もの」の全体像の把握 ・分類方法と配置の理解

「もの」の全体像の把握

 整理された状態から全ての「もの」を見ることができるれば好ましいですが、見えなくてもありそうな場所に確信が持てれば問題ありません。ただ、「何処に何があるのかわからない」といった状況では全体像が分からず、探す「もの」が有るのかどうかも分からないのです。この場合は「整理の仕方」以前の話になってしまいます。

分類方法と配置の理解

一目で分類方法と配置が理解出来なければなりません。整理整頓では分類数が多く、それが分かり易く配置されていると探す範囲が狭まるので効率化します。そのため衣類を例にすると男性用、女性用と分けてその下に大人用、子供用とするなど、分類と配置を階層化することが一般的です。このことは、一目で階層構造を理解できる仕組みが求められるのです。

書店を例にしてみましょう。「ビジネス書」「小説」「娯楽書」といったようにエリアが分かれています。本を探す人は該当するエリアに行きます。そこには幾つかの本棚があります。本棚はそこ入っている本のタイトルから傾向が分かります。傾向が分かると分類方法を理解しますので、目的とする本の入っている本棚が分かるので範囲が狭まり探し易くなるのです。

フォルダ型ソフトの問題点

フォルダ型ソフトは「何処に何があるのかわからない」といったように、全体像の把握が困難な場合があります。また、分類方法と配置の理解が一目では分かりません。何処に問題点があるかといいますと、「開かないと何が入っているのか分からない」点です。中が見えないので「全体像の把握や、分類方法、配置の理解」といったことが一目では分からないのです。もちろんフォルダを開いて調査をすれば分かりますが、もともと「もの」を探す際の効率化が目的ですから、手間を掛けて調査を行うのは本末転倒なのです。

もう一つはフォルダ作成の自由度が高いことです。階層は最小限にしないと複雑になって分からなくなりますが、いくらでもサブフォルダを作れることから「何処に何があるのか分からない」といった全体像も分からない複雑な構造体になりがちです。これは「段ボール箱の中に段ボールが幾つあるのか分からない」といった状態に似ています。これを用いて本棚の代わりに書店の本を整理することを想像すだけで、その難しさを思い当たると思います。

パソコンの生まれた経緯

パソコンの登場は革命と言われるほど世の中を変えることになりました。当初は個人向けのコンピューターとして産声を上げたものですが、当時の正流のコンピューターに比べて極端に安価だったことから、さまざまなところでパソコンを用いるようになりました。

組織での運用を目的にしていた当時のコンピューターとパソコンでは大きな違いがありました。情報の共有を重要と考えていた当時のコンピューターはデータベースを用います。ところがパソコンはそれほど重要とは考えていなかったのでファイルを用いたのです。

ファイルを用いたことはパソコンの自由度を高めることになり、それが多くのメリットを生みだすことになりました。ただ一点、情報の共有を除いてです。

パソコンはその生い立ちからもともと情報の共有が苦手です。ファイルを他の人に渡す際にはUSBメモリーにいれて手渡ししますが、これは「もの」のやり取りと似た光景です。ファイルの扱いに「もの」と同様の、一つ、二つといった数の概念が必要になるところも同じなのです。本来なら電子データでありながら数の概念を必要とするというのは、とても可笑しな話なのです。

この特性から、ファイルの持つ情報の共有には物理的なファイルの共有が必要になります。このことが甲府市役所の例で紹介した、「業務の効率化はなされていない」るのですが、という結論を導いた、「目的のファイルを探すのが容易ではない」という現象に繋がっています。

パソコンの導入により、それまでの事業所内の図面や書類やファイルに置き換わったと言われています。業種や規模により異なりますが、保管する必要があったり業務に必要だったりするファイルは事業所内に相当数あるはずです。これらは共有フォルダに入れて管理しますが、「数が増えると探すのが難しくなる」のは当たり前ですので、ファイルの特性からもともと見つけることは容易ではないのです。

整理整頓の必要性

では「もの」と同じ特性を持つファイルはどのように管理したら良いのでしょう。物理的な「もの」は整理整頓以外には方法はありません。ところがファイルは検索やソート機能を使うことができます。そのため、ある程度の効率化は図れますが、ファイル名が内容を反映していない場合には検索は役立ちません。デザイン画のようなものでは内容が反映されないので難しいのです。

そのため、「もの」と同様の特性を持つファイルの管理には整理整頓が無難です。一目見て目的のファイルの所在が分かるように整理がされていたら問題ないのです。

整理ソフトの開発について

ところが、フォルダ型ソフトは前述した通りファイルの整理を苦手としています。そして、驚くことにファイルを保存するソフトは、メーカーは異なってもフォルダの形をしたものしか世の中に存在しないのです。このような状況下では「ファイルを探す時間が増えた」ことで「業務の効率化がなされない」というのは当たり前のことなのです。

そこで当社はフォルダ型に変わる、ファイルの整理を目的にしたソフトを開発することにしました。ソフト開発は最初は形が決まっていないものです。形は目的を適えるための機能として決まってきます。そして私たちの開発したソフトは書庫を模した形になりました。

一つには文字が生まれ、それを紙に残せるようになった時代から現在に続く書類の整理整頓手段としてとても優れた機能を持っていることです。もう一つは私たちが使い慣れていることも理由になりました。

書類は本という分類にまとめられ、さらに本棚という分類に配置されます。これの良いところはそこ入っている本の背表紙のタイトルから本棚の傾向が分かることです。本棚と本は階層構造ですが、一度に二つの階層を理解することができるので整理の仕方が分かり易いのです。

平面から二つの情報が読み取れる工夫を生かすために、書類ではなく本にファイルを入れて本棚に配置したらどうかということになったのです。そして本に入れたファイルの印刷情報を表示させることができたなら、本を取り出してから目的のファイルを探すことが容易になると考えたのです。

ただ、開発過程では問題点もありました。「大量のファイルを整理することになると、本棚と本の数が増えて結局探すのが難しくなるのではないか」というものです。これは「組織の部署や課で運用されるファイルは、他部署をまたいで共有されるものは少ない」との事実から、使用者毎に本棚へのアクセル権限を設けることで解決しました。他部署や過去の使わない本棚を非表示にすることで、誰もがシンプルで使い易い本棚を利用できるようになりました。

もう一つの問題点は技術的にも資金的にもハードルがあまりにも高いことでした。プログラムは開発言語が提供している部品を組み合わせて作ります。ところが、フォルダ型以外のファイルソフトを開発するために部品など存在しないのです。世界的にもどこもしていないことですので開発するには手に余るものでした。

この問題は他社との協業により解決しました。当時開発協力をしていた(株)リコー様のグループ機関の鳥取技術研究所でエクスプローラーに替わるファイルソフトを内作していたのです。このソフトを改良することで世界でも珍しい本棚型ファイルファイルソフトを開発することができたのです。同時に「共有フォルダのファイルを削除すると復旧できない」という問題点がエクスプローラーにあったことこから、組織の運用で問題が起きない仕様にしました。

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